既存事業のしがらみ

顧客と話し合っていると、既存事業の停滞であったりきっかけは様々だが、新規事業への取り組みについての相談になることが多い。その際の心得として、一般の起業家を指す「アントレプレナー」に対して、企業内での新規ビジネスを起こす際の責任者を「イントラプレナー(社内起業家)」と呼ぶが、そのイントラプレナーには一般に言われる次世代のリーダーとしての志や感度の高い情報アンテナ、組織の構築や商品開発など、ビジネスの全体を俯瞰する力以上のものが求められる。

「新規事業の立ち上げ」と言うとゼロからの立ち上げのようにも聞こえるが、実際には企業を立ち上げるノウハウをすでに社内に持っている場合も多い。むしろ、そうした企業が持っている資産を活かすことが、新規事業の成功に結び付くポイントであると紹介されることがほとんどでなはいだろうか。もっともなようにも思うのだが、しかし本当にそうだろうか。むしろ一方で、既存事業のしがらみを引きずることになり、新規事業の足かせになっていることも多いのではないだろうか。

足かせとなる社内事情

その新規事業の足かせになるのが、「社内の事情」であることが多い。それは既存事業の抵抗であったり、経営者や財務部門辺りからの「合理的な説明の要求」や、新規事業に比べて既存事業に力を入れることで得られる当面の結果の大きさにばかり目がいってしまって、その結果いつまでも参入できなかったり、そもそも新規事業に対する切迫感が既存事業にない、などなどが起こったりする。これらのことは大企業にだけ起こるのでない。中小企業においても程度の大小はあれ、同じことが実際に起きている。

たとえ新規事業が既存事業の市場を荒らすことになっても、自社で取り組まなければいずれ誰かが参入する。そもそも合理的かつ確実に成功するビジネスを求めるなら、下請け的なスモールビジネスに甘んじるしかない。また、始めから大きな成果を求めようとするので、大切な第一歩を踏み出すことができないといったこともあるだろう。特にバブル崩壊後はコスト効率が追求されがちな雰囲気の中にあって、冒険することがままならないのだ。そうした結果、イントラプレナーは市場や顧客ではなく、社内の説得に時間と労力を使うことになってしまう。

目利きはきちんとできているか

よく社内で聞かれるのは、「そんなことはとっくに社内で検討している」、「そんな小さな市場を狙ってどうするのか」、「社内の技術はもっと先を行っている」、「品質管理は十分なのか」といったお決まりの台詞だ。社内で検討していても実行できていなかったり、最初から大きな市場があるような事業なんてないし、顧客が求める以上のものをつくっても、その時は旬が過ぎていたりするにも関わらずだ。そんな議論がまかり通ること自体、新規事業に対する目利きがきちんとできる状態にあるのかと疑問を感ぜずにはいられない。

そうなると、いかに優秀なイントラプレナーであっても社外のアントレプレナーに勝てない。せっかく社内のエース級の人材を新規事業の開発に投入したとしても、当の人材の不興を買ってしまい、逆にそのせっかくの人材が社外に活路を見出し、最悪、退社するようなことになってしまう。そうなっては何のための新規事業か分からなくなってしまう。まず第一にそうした社風というか、社内の体制が新規事業を育むようになっているかを振り返って見なければならない。

イントラプレナーの育成

新規事業の立ち上げには、アイデアと良きリーダーだけでは十分ではない。上記のような阻害要因がないかチェックするとともに、社内において将来イントラプレナーとして働くというキャリアビジョンを持つことが、安易な離職を防ぎ、定着率を高めるような制度を用意することが必要なのではないか。例えば、入社後1年目、3年目、5年目などの区切りごとに、若手・中堅社員向けにキャリアデザイン研修を行い、イントラプレナーとしての道を示してやるのも良いのではないだろうか。

イントラプレナーは誰もがなれるわけではない。組織に属しながらも、起業家やベンチャーに負けないぐらいの活力を持ち、経営者同様に未来を基点に自ら価値を生み出していく存在でなければならないからだ。そのために、養成プログラムを受けること自体が一つのステイタスになるように、プログラムの意義や目的を社内で理解、浸透させなければならない。中小企業においてこうしたイントラプレナーの存在は、組織のためにも好影響をもたらすものになるに違いない。

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