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正しい判断は長期的な視野から
「私たちは目の前の危機に適切に対処するのと同時に、長期的視野を決して見失ってはいけない」と警告を発するのは京都大学の中西輝政名誉教授。中西名誉教授は国際政治が専攻で、この言葉も今年の世界の政治情勢を占う中での発言だが、これはあらゆる面においても言える。
長期的な視点が何故必要か。「短期的なことばかり考えていると、人は得てして感情的、悲観的になったり、時に尊大になって自分の力を過信してしまうなど、正しい判断が決して生まれないからです」という。反対に、「長期的な視野を失わない習慣を身に付けてこそ、心のバランスが取れ、正しい判断ができるのです」。
解決策を忌避していないか
企業経営においても社会活動でも、短期的に望ましいと思われたことが、長期的な視点で捉えると最悪の選択だったというケースがある。目の前の問題を取り繕おうとする弥縫策や、感情に任せた判断、苦し紛れのアイデアなどがこの類だ。少し以前の話で恐縮だが、バブル景気などはまさにそうした判断の積み重ねが生み出したものとも言える。
「特に短期的な視野による間違った判断は企業の信用を失い、最悪の場合は倒産して従業員を路頭に迷わせてしまうことさえあります」と中西名誉教授。その短期的にしかものを見れない人に共通する特徴として、「長期的にまったく見通しが立たないような事態に立ち至った時、解決策を忌避し目をふさいでしまう」傾向があると指摘する。
長期は楽観、短期は悲観的に
中西名誉教授は、物事の判断に当たっては「長期的には必ず楽観できる選択をする。しかし、短期的には慎重に事を運ぶため、あえて悲観的に捉える」ことが健全な計画を立てる上での原理原則だと話している。「長期の悲観、短期の楽観という組み合わせで突っ走った日米戦争は、まさにこの逆をいった悪しきパターンだった」と振り返る。
今、日本が置かれている状況を見れば、少子化、人手不足問題、財政難など、長い目で見ると必ず国を揺るがすことになる諸々の課題が横たわっている。それに加えて、技術面ではAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの流れにどう対応するかは、まさに喫緊の課題としてある。
気概に加え想像力を
しかし、こうした課題に対して「まあ何とかなるだろう」、「そんな先のことは考えても仕方ない」、「面倒なことは目をつぶろう」などといった意識のままの経営者も残念ながら多いのではないか。しかし、今これらに目をふさいでしまえば、道は完全に途絶えてしまうことをもっと自覚すべきだろう。
中西名誉教授は「どのような状態に置かれても、『必ず道はある』と信じて長期的な策を練っていく。日本人に今求められるのは、その気概なのだと思います」と話す。私は、中西教授の言われる「気概」に加え、想像力も上げたいと思う。未来の社会で自社がどう活躍していくのか想像するのは楽しいものだ。