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悔しい気持ちを継続
前全日本女子バレーボール代表監督の真鍋政義氏は、勝つための条件をいくつか挙げているが、その中でも最も大切なものとして「悔しい気持ちを継続できること」を挙げている。
同氏にしても、1996年のアトランタオリンピックに日本が出ることができなかったくやしい経験が、後に女子の監督を引き受けた原動力になったと話す。
2009年に全日本女子代表監督に就任したその真鍋氏が、「人に何を言われてもいいからロンドンオリンピックでメダルを取ろう!」と共に誓った相手が、セッターとして活躍した竹下佳江選手だった。「セッターが159cmの身長では世界に通用しない」とやり玉に挙げられ、バッシングにさらされたあの竹下選手だ。
負けた瞬間の写真を掲げる
竹下選手はシドニーオリンピックの出場権を逃した後、一時期バレーボールから離れた時期もあったが、結局全日本に復帰し、2012年のロンドンオリンピックで、大会直前の練習中に左手人差し指を負傷するアクシデントに見舞われながら、28年振りとなるメダル(銅メダル)の獲得に貢献した。
真鍋氏が、もう一人、バレーボール以外で「すごい」と感じた選手がいた。
それは卓球の福原愛選手だ。福原選手は北京オリンピックで4位入賞を果たしたが、「3位と4位では人生が異なるぐらいに差がある」と真鍋氏。
福原選手が何よりそのことを肌身に感じていた証拠に、彼女が練習する部屋の壁には北京で負けた瞬間の写真をひと際大きく張り、練習前には必ずそれを見て心を奮い立たせていたという。
「クレージー」と呼ばれた練習
その後の福原選手の活躍はまだ記憶に新しい。ロンドンで銀、リオで銅メダルを取っている。「継続は力なり」とは言い古された言葉だが、悔しい思いが、「非常識を常識にできる」のだ。
これはバレーボールの監督としては大先輩に当たる松平康隆氏が真鍋氏に送った言葉だったそうだ。「常識の延長線上には常識的な答えしかない」とも。
実際、真鍋氏はそこから、相手コートに男子を立たせてレシーブの練習を徹底して行うようになる。海外からの見学者が「クレージー」と叫んだ練習だ。バレーボールの練習といえば、スパイクやブロックであったりしてまず得点力を上げようとするところ、まさに「リスクある選択をして新しいことに挑戦をした」のだ。
心配りも一流
真鍋氏といえば、皆さんもご存知のように、試合中にタブレットを片手にして緻密なデータ分析をしながら指示を出す「IDバレー」で有名だ。しかし、そこばかりに目を向けていると、勝利への本質を見落とす。「監督はモチベーター」と言い切る真鍋氏。いかに情熱を持ってその世界観を語るか、それによって選手が引き付けられ、心をわしづかみにするのだ。
もちろん、その陰には女子に対する細やかな心配りもあった。選手をタイプ別に分けて、それに応じた対応、例えば叱り方を考えていったという。そして、ロンドンオリンピックの3位決定戦の前日には、皆で5分間程度の特別に編集した動画を見て気持ちを高め合ったそうだ。私はそれだけのことを普段の仕事でしているかと振り返っている。