【目次】
プロの意地
プロ野球で昨年優勝した日本ハムが(この原稿を書いている段階)低迷にあえいでいる。
交流戦の最中、巨人が13連敗して注目が集まっていたが、その陰で日本ハムも6連敗と悪い流れが続いていた。
栗山監督は「4番中田」をそれまで一度も代えることはなかったが、その日の試合は「3番」で迎えた。得点のチャンスにその中田に打順が回ってきた。
その中田が見事逆転の2ベースヒットを放ち、日本ハムはそのまま勝利した。
中田は「みんながこんなに頼りないバッターに回してくれた。意地でも打ちたいと思っていた」と打席での心境を語った。
栗山監督が中田とどんな話を交わしていたのかは分からないが、中田は4番を外れたことをしっかりと受け止めていた。
納得して人を動かす
会社の人事を巡る話しでもいろいろあるが、転職をした友人がこんな話をしていた。
「自分が異動で一見左遷かと思われるようなところへ行っても、それはそれなりにやりがいもありあまり気にはならなかったが、自分の後任にまったく畑違いの人が来ることが分かったときに、張り詰めていた気持ちが切れた」。
人事異動ほど関心を集めるものもない。
それはこれまでしてきたことの評価が現れるからだ。
新しい異動先にばかり注意が行きそうだが、自分の後任に誰がくるのかでもそれは分かる。
だから、人を動かすに当たっては、細心の注意とその説明を本人にすべきなのだ。たとえそれが「左遷」であってもだ。
采配の妙
本人が納得すれば、その新たな位置は本人にとってまた新たなチャンスに結び付く。
ただの紙切れ一枚だったり、おざなりな説明だけで終わっていては決してやる気に結び付いたりはしない。
それこそ人は将棋の駒ではないのだ。
役職者は人事異動を部下のやる気につなげる絶好の機会にしなければならない。
日本ハムの例でいえば、調子の上がらない4番バッターを代えることは、どんな監督でも当然のことだろう。
指揮官として打つべき手を打ったということだ。
しかし、その裏で中田を納得させていたことに采配の妙がある。
栗山監督は並みの監督ではないと感じるのもそこにある。
プロのプライド
中田は4番を外れたことをしっかり受け止めていたことが今回の結果につながった。
決して、それを斜に構えたり、憤慨したりしていない。
本来、仕事に携わる身としては私たちもそうでなくてはならないとは思うものの、やはり上司の対応一つに気持ちが左右されるのも事実だ。
「4番中田」を巡っては他にもこんなエピソードがある。
不振に悩む中田に、侍ジャパンでも4番を務めるほどの稲葉が、「4番代ろうか?」と声を掛けた。
すると中田がその先輩に向かって、「稲葉さんじゃ無理ですよ」と言い放ったと言う。
4番のプライド、後輩思いの稲葉がリラックスさせようとする配慮、つくづくそのレベルの高さに頭が下がる。